相続税コラム

相続税対策で重要なこと ~その2 遺言書について~

 遺産分割争いを回避するためのものとして遺言書は大切なものですが、相続税対策としても遺言書は重要なものとなります。

 遺言書がないと遺産分割協議により遺産の分割を行いますが、相続税を計算する上で、申告期限までに遺産分割協議が調う場合とそうでない場合とで税額に差が生じることがあります。具体的には、小規模宅地等の特例や農地の納税猶予の特例、配偶者の税額軽減といった、財産を取得する相続人により適用可否の判断が分かれるものを使えるかどうかで税額が異なることになります。申告期限までに分割協議が調わない場合には、未分割として法定相続分に基づき相続人全員で相続税を納税するのですが、取得する財産が決まっていないとこのような特例や軽減措置を適用することができません。相続税の申告期限である10カ月は、相続発生後に行わなければならない公的機関・金融機関等のさまざまな手続きに追われ相続人同士の話し合いも行っていると、あっという間に訪れてしまうものです。実際には、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減については、未分割として相続税を申告・納税しても、その後3年以内に分割協議が成立し要件を満たすことができれば、一定の手続きを経て税額を計算し直すことで差額の還付を受けることができます。しかし農地の納税猶予については、申告期限までに遺産分割された農地であることが要件とされていますので、申告期限を超えて分割が成立した場合には本特例を適用することができなくなります。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減が申告期限後の分割成立でも還付できるといっても、一旦は未分割として特例未適用の相続税を納めることとなりますので、その分の納税資金も多めに用意しなければならなくなります。分割協議が未成立の状態では相続財産の不動産を勝手に売却することもできず、納税資金を捻出することも決して容易ではないと推測されますので、申告期限までの早い段階で分割が成立するに越したことはないといえるでしょう。

 このほかにも、未分割として相続税申告を行うことについては、例えば不動産所得を生じる物件があると未分割期間は法定相続分で按分し法定相続人全員で所得税の確定申告をすることで煩雑となることや、生前贈与の7年加算対策として相続財産を取得しない場合でも未分割は共有状態として加算対象となってしまうといった問題点があります。

 遺言書はすべての財産について記述しなければならないわけではなく、相続人を指定したい特定の財産のみにつき作成することもできます。特に相続税に影響が出そうな財産についてだけでも遺言書を作成しておくことで、相続人となるご家族は遺産争いだけでなく相続税の負担も軽減することができるのではないでしょうか。