相続税コラム
インフレと相続税対策 ~物価上昇時における相続税対策の考え方~
※本稿は当事務所の広報新聞として令和6年4月に執筆した記事を、令和6年9月に本コラムへ掲載しています。記事中の数値、経済状況等は令和6年4月時点のものです。
近頃、物やサービス提供の価格が上昇し、「インフレ」「物価上昇」という言葉を耳にする機会が多いかと思います。
総務省発表の令和6年2月全国消費者物価指数(コアCPI)によれば、106.5と前年同月比2.8%の上昇となりました。令和4年頃から様々な物の価格が急激に上昇しており、生活への影響を実感している方も多いのではないでしょうか。
株価に関しては、日経平均株価は令和6年2月22日にそれまでの最高値を更新した上、3 月4日には史上初の終値で40,000円台に乗せました。土地についても、3月発表の令和6年1月1日時点の公示地価が全国平均でバブル崩壊後最大の上げ幅となったことが報道されています。このように、生活に要する物の価格だけでなく、金融資産や固定資産の価格も同様に上昇し続けており、今のところ上昇が止まる気配は見受けられません。
一方で、私たちに課せられる税金は、例えば個人の利益(所得)に課せられる所得税、所有する土地や家屋の評価額に課せられる固定資産税、相続財産や贈与財産の評価額に課せられる相続税や贈与税といったものがあり、これらは基本的には利益の金額や資産の評価額が増えれば税額も増える仕組みとなっています。
では、節税の観点では、インフレ時にはどのようなことが考えられるでしょうか。
まず、インフレにより利益や価格の額が大きくなれば税額も自動的に増額することは前述した通りです。例えば相続税の対象となる相続財産の価格が上昇した場合で、インフレによる価格上昇以外の条件はすべて同一だと仮定すると、インフレ前よりインフレ後の方が相続税額は増えることになります。そうであれば、価格が上昇する前(上昇が完了する前)の今のうちに生前贈与により子や孫に財産を移しておけば、価格が上昇した後に相続するよりも低い価値で移転できることになります。このとき、現金はインフレにより価値が下落するためインフレ対策を含めた相続税対策としては効果が薄いもしくは逆効果となる可能性があり、価格上昇が見込まれる株等の金融資産や不動産といった現物資産を生前贈与の対象とすることが想定されます。また、税制自体についても今回のような急激な経済状況の変動があれば、財源確保を目的として改正が入ることもあり得ない話ではありません。この点からも現行法のうちに早めの資産移転が相続税対策として有効となる見方もできます。なお、生前贈与にあたっては、令和6年1月1日以後の贈与から相続前贈与の相続税への加算期間が従来の3年から7年に延長されていますので考慮する必要がありますが、相続税に加算する贈与財産は贈与時点の評価額で計算する点は節税ポイントとなる可能性があります。
今回のお話は、あくまでこの先も現在の急激なインフレが進行することを前提とした推論であり、実際には状況が異なる可能性があります。しかし今後も一定程度インフレが続くと仮定するのであれば、今のうちから生前贈与により財産を移転しておくことも、有効な相続税対策の一つの選択肢と考えてもよいのではないでしょうか。